学習療法とは
「学習療法」とは、東北大学の川島隆太教授による最先端の脳科学研究の知見をもとに、東北大学と福岡県の特別養護老人ホーム永寿園様、そして、学習療法センターの三者による共同研究の結果誕生したプログラムを活用したもので、認知症の進行抑止・改善をはかる非薬物療法として、日本とアメリカの高齢者介護施設で活用いただいております。
学習療法は、脳を活性化することで、ご高齢者の自立支援をはかるとともに、関わる介護スタッフの成長ややりがいにもつながり、さらには、施設全体のケア力の向上や、ご家族の喜び、地域貢献にもつながるものです。
学習療法センターは、高齢者介護施設と契約を結んで、教材やノウハウなどのプログラムを提供しています。
- スラスラ楽しくできるレベルの「読み書き・計算」教材と「磁石すうじ盤」を⾏います。
- 「読み書き・計算」教材は、脳科学理論に基づきKUMONが開発した高齢者専用オリジナル教材です。
- 研修を受け、学習療法実践士の資格を持ったスタッフとコミュニケーションをとりながら⾏います。
- 学習は、1回20分~30分です。
- 効果を高めるために、入所施設では週5回を基本として3回以上、通所施設では原則として全開所日に学習時間を設定し、通所日に学習します。
学習療法の定義
学習療法とは、音読と計算を中心とする教材を用いた学習を、学習者と支援者が、コミュニケーションを取りながら行うことにより、学習者の認知機能やコミュニケーション昨日、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善を図るものである。
KUMONレポート(動画)~学習療法デイサービス編~
学習療法の理論
学習療法の理論についてご紹介しています
脳の司令塔「前頭前野」
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態です。
その脳の中で、人間だけが他の動物と異なり、おでこの後ろ側にある「前頭前野」という場所が発達しています。人間を人間たらしめている部分こそが、この「前頭前野」であり、別名「脳の司令塔」と言われています。
では、その前頭前野にはどんな働きがあるかというと、主に9つあると言われています。
①「思考する」②「行動を抑制する」③「コミュニケーション、対話をする」④ 「意思決定をする」⑤「感情を制御する」⑥「記憶をコントロールする」⑦「意識・注意を集中する」⑧「注意を分散する」⑨ 「やる気を出す」
もし、これらを「行動を抑制することができない」「コミュニケーションすることができない」といった具合に、「○○できない」と表現したら、認知機能が低下している状態と言えます。
「簡単な計算をスラスラ解くこと」「文章をスラスラ音読すること」が、脳全体を活性化する
脳科学者である東北大学の川島隆太教授は、「Functional MRI」や「光トポグラフィ」といった器械を使って、どんなときに前頭前野を中心とした脳が活性化するのかを、長年研究してこられました。その結果、簡単な計算をスラスラ解いているときや、文章をスラスラ音読しているときに、脳が活性化することを突き止めました。
Functional MRI
MRIは放射線を用いず、磁石による磁場と電波を用いて、生体外部から組織を画像化する装置・技術。MRIは主に全身の組織や臓器の構造の観察に用いられ、Functional MRIは脳の機能や活動の観察に用いられます。
「コミュニケーション」が前頭前野を活性化する
さらに、「簡単な計算をスラスラ解くこと」「文章をスラスラ音読すること」と同様に、人とコミュニケーションしているとき、つまり、会話をしているときも前頭前野が活性化することもわかりました。
光トポグラフィ
身体に無害な近赤外線を用いて脳の活動状況を調べる医療用・研究用機器。脳表面にある大脳皮質の血流の変化パターンを計測・画像化します。
~脳機能イメージ研究からわかったこと~
①「簡単な計算をスラスラ解くこと」「文章をスラスラ音読すること」が脳を活性化させる
②「人とコミュニケーションすること(会話すること)」が脳を活性化させる
だから、学習療法・脳の健康教室では、計算・音読・コミュニケーションを大切にしています。
東北大学 川島隆太教授
プロフィール
1959年、千葉県千葉市生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。スウェーデン王立カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学助手、講師を経て、現在は東北大学加齢医学研究所教授。脳のどの部分に、どのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者である。
学習療法のエビデンス
学習療法のエビデンスについてご紹介しています
第1期 学習療法実践研究(福岡県大川市/社会福祉法人・道海永寿会)
2001年9月、東北大学・川島隆太教授をリーダーとする共同研究チームによって、社会福祉法人道海永寿会で初めての学習療法の実践研究がスタートしました。この研究には公文も参加し、独立行政法人・日本科学技術振興機構の助成を受けた産・官・学の共同プロジェクトとして実施されました。
「読み書き」「計算」学習の効果を測定するために、認知症高齢者を学習群と非学習群(学習をしない群)に分け、学習開始前および6ヵ月後にFABとMMSEを実施して両者を比較しました。図1と図2がその結果で、明らかに高齢者の脳機能が改善されていることが分かります。
検査の数値の向上にとどまらず、まったく無表情の方に笑顔が見られるようになったことやおむつに頼っていた方に尿意や便意が戻ってきたという日常生活での変化も認められました。
※FAB(Frontal Assessment Battery):
前頭葉の機能を中心に評価する面接形式の検査です。6つの検査で構成され、18点が満点になっています。健常な人では、ほぼ 8 歳以上になると満点が取れます。
※MMSE(Mini-Mental State Examination):
面接形式の認知症スクリーニングテストの一つです。11の分野の検査で構成され、30点が満点になっています。22点未満は認知症などの認知障害の可能性が高い、22~26点は軽度認知障害(MCI)の疑いがある、27~30点は正常であると言われています。
第2期 学習療法実践研究(宮城県仙台市/医療法人・松田会)
2003年6月、道海永寿会での成果を踏まえ、医療法人松田会エバーグリーン病院で学習療法の実践研究が始まりました。この研究は宮城県仙台市と東北大学との「『学都』共同研究プロジェクト」のひとつとして行われ、図3、図4のような結果が得られました。
この研究でもFABとMMSEは学習群と非学習群との間に大きな差が認められましたが、学習群の中の3割の方々のおむつが取れ、着替えが自分でできるようになったという日常生活面での変化が見られました。
特筆すべきは、エピソード記憶という「昨日は本屋に行って雑誌を買った」などという時間や空間を特定して思い出せる個人的な出来事の記憶が戻る傾向が見られたということです。
国家課題SIB調査事業
2015年度、経済産業省から「国家課題」として採択された「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)調査事業」の中で、学習が要介護認定基準時間の変化に与える影響を調べたところ、図の結果が得られました。
赤い線・学習をした方々の介護度は上がらなかったのに対して、青い線・学習をしなかった方々の介護度は上がっています。1年後には、介護度で1近い差が出ました。つまり、学習をした方々は、介護度が悪くならなかった、という結果が出たのです。
学習療法の効果
学習療法の効果についてご紹介しています
学習者にとっての効果
効果
1
学習者の変化は、脳機能検査の数値の改善だけでなく、生活面にもあらわれます。脳機能が改善、活性化することにより、その人らしさが戻り、生活の質(QOL)が向上していきます。
コミュニケーション面
- 笑顔が増え、表情が豊かになった。
- コミュニケーションが増えた。
- 自分の意思を積極的に示すようになった。
- スタッフにご自分から話しかけてきたり、ご利用者同士で談笑するようになった。
- 家に帰ってから家族に通所での様子を話すようになった。
- 冗談を言って笑わせようとするようになった。
意欲面
- スタッフや一緒に学習しているご利用者の名前を覚えようとするようになった。
- 学習を楽しみにされ、生きがいを感じるようになった。
- 生活全般に意欲が出て、レクリエーションやリハビリにも参加するようになった。
- しばらく遠ざかっていた趣味にまた取り組むようになった。
身辺自立面
- 排泄・着衣・食事・掃除・片付けなど自分でできることは自ら行うようになった。
- 尿意を感じるようになり、スタッフに伝えられるようになった。
- リハビリに積極的に取り組み、車いすから杖歩行ができるようになった。
- 家でも簡単な料理や、洗濯物干しをするようになった。
周辺症状の緩和
- 暴言・暴力が見られなくなった。
- 夜中壁を叩いて騒いでいた方が、穏やかになり、言葉がやさしくなった。
- 徘徊がなくなり、落ち着いて座っていられるようになった。
- 帰宅願望が減った。
- 被害妄想がなくなった。
- 夜間良眠されるようになった。
認知機能面
- ご自分が子どものころのことや、お子さんが小さかったころのご家族の思い出、仕事をしていたころのことを楽しそうにお話してくださるようになった。
- 短期記憶が改善され、数日前のことも思い出して話をされるようになった。
ご家族にとっての効果
効果
2
学習療法を通じて上記のように変化される学習者の姿は、ご家族にとっても大きな喜びとなります。
- 家族や昔のことを思い出し、話してくれるようになった。
- 意欲が増して、前より元気に、活発になった姿を見て嬉しい。
- いきいきと学習する様子を見て、驚いた。
- 介護に協力的になり、介護者の負担が減った。
- あきらめかけていたが、希望が見えてきた。
スタッフにとっての効果
効果
3
学習療法を行うことで、学習を支援するスタッフにも様々な効果が見られます。
能力の向上
- 大勢でのレクリエーションと異なり、学習療法は1対2で行うので、その方のことをよく見て、コミュニケーションすることにより、研修で得た知識ではなく、実践で体得するスキルが得られる。
- 気づき力・観察力が高まる(たとえば、表情や音読するときの様子、書くときの様子、会話のときの様子などの小さな変化に気がつくことで、その日の体調・状態を把握することができるとか、脳梗塞の早期発見につながったこともあるなど)。
- コミュニケーション力が磨かれる。
- ご利用者との個別の距離感を掴む練習になる。
- 学習の記録をつけることで、記録力が鍛えられる。
- 学習療法での経験が、日常のケアにも活かせる。
やりがい・働きがいの向上
- 会話が増えて、ご利用者のことをより知ることができるようになった。
- 送迎の際に、ご家族へ学習療法中の様子を自分の言葉でお伝えすることができる。
- 学習療法でご本人にもご家族にも喜んでいただけて、スタッフ自身の様々な能力も向上することにより、やりがいや働きがいが向上する。
- お風呂・トイレ・食事の介助があって忙しい、時間がないとなりがちだが、学習療法でご利用者様の変化を体験することで職員が前向きになり、施設の雰囲気がすべて良くなる。
- ケアの視点や考え方が変わった(できることを探し、可能性を見出す=自立支援へ)。
- 自分たちのケアでご利用者を元気にしたい気持ちが向上した。
- ご利用者の人生や思いを知り、尊敬できるようになった。
施設にとっての効果
効果
4
学習者、ご家族、スタッフにとっての効果は、そのまま施設にとっての効果となります。
- ご家族から感謝されることが増え、信頼度が高まった。
- 職員同士の情報共有が増え、ケアの質が上がった。
- 学習療法のやり方をレクなど他のすべての活動にも適用することで、みんなでうまくやっていく方法を考えることにつながっている。
- スタッフのやりがい、働きがいが向上することで、離職者が減った。
- 施設としての認知度が高まり、学習療法があるからと選んでくださる方や、ケアマネジャーからの紹介が増えている。
- 認知症に悩む方は多いので、学習療法を実施している施設へのニーズの高さを感じる。
学習療法の導入事例
学習療法の導入事例についてご紹介しています
学習療法導入事例集(9事例)
■通所介護施設
ケアパートナー株式会社
Qアップスタジオ宮城野
①学習者にとっての効果
Qアップスタジオ宮城野では合言葉に【身体に運動、頭に公文】を掲げ、器具や体操で身体を動かし、学習療法で脳の活性化を目指すプログラムを導入しています。
「自宅で元気に生活を過ごしたい」「出来ることは頑張って続けたい」などご利用者様の身体と心の様子を合わせて健康作りや社会交流を楽しんでいただく環境づくりを心掛けています。
学習をされているご利用者様からは「自宅にいてもやることが見つからなくてボーっとしていることが多かったが、学習療法をやるようになって、自宅での学習習慣も身について嬉しい」という声や「手指をうまく動かすことができなくなっていたが、すうじ盤で指の運動にもなるし、脳の活性化にもなって一石二鳥で良かった」など学習を始めることでご利用者様のやりがいや出来なかったことが出来るようになったなど心身ともに効果がハッキリと表れています。
②ご家族にとっての効果
ご家族にはQアップスタジオ宮城野をご利用されるにあたり、先述した合言葉をご理解いただくようにお話をしています。学習を行うのは午後のご利用者様のみですが、ご利用者様のなかには「明日は公文の日だよ」というとデイサービスの日だと認識できるようになって、ご自身で準備をするようになった方もいらっしゃいます。“デイサービスで何をしているのかわからない”というご家族の不安も学習療法を行っている様子や変化などから安心していただけるようになりました。学習療法をやっていて学習者へ“認める”“ほめる”を行うことで、あるご利用者様では「学校に行くとほめてもらえる」と言って、とても表情が明るくなり、自信にもつながっているようにも見える、というご家族からのお言葉もいただきました。
③スタッフにとっての効果
Qアップスタジオ宮城野のスタッフは総勢5名です。学習療法を行うご利用者様は午後にお越しいただき、3テーブルに分かれてスタッフ3名、ご利用者様は6名で行っています。学習療法を行っている間にも学習療法に携わらないスタッフも1名おり、学習療法を行わないご利用様などの対応をフロアで行ってくれています。スタッフが学習療法を行っている中で効果として感じる点は1.学習療法を行っている目的を聞かれることがあっても、根拠があるので自信を持って答えることが出来る。2.スタッフ間でのお客様の情報共有がやりやすくなった。スタッフからも〇と100点がご利用者様にとってうれしい事なんだということを実感することが出来たなど、ご利用者様との向き合い方にも大きな効果がでています。
④施設にとっての効果
Qアップスタジオ宮城野にとって、学習療法を導入以後つぎのような効果があらわれました。
- サービスの見える化ができ、ご家族との信頼関係を構築しやすくなった。
- 近隣のデイサービスなどの競合他社との差別化が図れた。
- スタッフのスキル差に左右されない安定したサービスを提供できるようになった。
- 言語リハを導入しているお客様のSTからも「学習療法の音読は効果的なので継続しましょう」と認めていただいた。
- ケアマネージャーのケアプランの中に“学習療法”の文字が記載されるようになってきた。
有限会社 エバー・グリーン山本
けやきデイサービスセンター
①学習者にとっての効果
学習療法は、ご利用者様の笑顔や意欲を引き出し、自信を回復させる素晴らしいツールとなっています。例えば、学習者Yさん(男性89歳)は、最初は学習療法を受ける必要がないとおっしゃっていましたが、奥様を亡くされ、物忘れがひどくなり、自信を失っていました。学習療法を始めると、短期間で表情が明るくなり、笑顔が戻り、積極的にコミュニケーションをとるようになりました。2か月後の検査結果も素晴らしく、娘さんも感謝の気持ちを述べてくださいました。学習療法は、ご本人だけでなく、ご家族と一緒に喜びを分かち合える素晴らしい手段となっています。多くの方が、学習療法を通じて、認知機能やQOLを維持しており、その効果に感動しています。
②ご家族にとっての効果
学習療法が始まると、ご本人の変化だけでなく、ご家族も変化していきます。認知症と診断された場合、ご家族もさまざまな感情を経験することがあります。我々は障害受容の5段階を踏まえ、ご家族とのコミュニケーションを大切にしています。日々の送迎時には、その日の様子や学習療法を通じて把握したことを具体的にお伝えし、定期的な報告書には、MMSE・FABの結果などを掲載しています。これにより、ご家族も安心感を持ち、喜んで送り出していただけることが増えています。学習療法を通じて、ご家族との信頼関係が深まり、施設全体の雰囲気が良好になっていることを感じています。
③スタッフにとっての効果
学習療法の導入により、スタッフの能力向上に寄与しています。学習療法中は1対2の対応が可能で、スタッフは利用者の様子をより細かく観察し、コミュニケーションを深めることができます。小さな変化に気づくことで、その日の体調や状態を把握でき、スタッフ同士も連携がより強化されています。スタッフは、学習療法を通じて、利用者に寄り添い、日々の変化に敏感になり、業務にやりがいを感じています。送迎時には、学習療法中の様子を家族に伝えることができ、スタッフの役割も充実しています。
④施設にとっての効果
学習療法の導入により、施設の認知度が向上し、多くの方が学習療法を受けたいと訪れるようになりました。ケアマネジャーからの紹介も増加し、認知症に悩む方々のニーズに応える施設として選ばれています。学習療法は労力を要しますが、その価値は大きく、施設の発展に寄与しています。学習療法を通して、喜びの連鎖が生まれ、職員一同が前向きなエネルギーで施設を支えていることを実感しています。
医療法人 展寿会
デイサービスセンター浮き雲
①学習者にとっての効果
現在、学習者は14名で半数以上が学習期間7年を越えています。データ的には緩やかな認知機能の低下はありますが、在宅生活を継続されています。
これまで多くの学習者と出会ってきましたが、脳の活性化はもちろん、たくさんの笑顔が見られるようになりました。コミュニケーションでは深くかかわり、学習者の幼少時代から人生の歩みを回想し、生育歴や「その人らしさ」を知り尊敬し、学習者にとってもスタッフにとっても貴重な時間になっています。二つの学習事例を紹介します。
事例A様:
93才女性。40代頃から、うつ疾患があり、数十年にわたり抗うつ剤を服用されていました。デイ利用時は認知症も発症され、学習を開始して7年目になります。些細なことから顔の表情が険しくなり、不安を訴えられることがあります。しかし、学習中はコミュニケーションを楽しまれ、まるで別人のように素敵な笑顔になられます。そのギャップにスタッフは驚きましたが、今ではA様の表情の変化に動じることなく、「寄り添う」ケアを心がけています。以後、うつ疾患の調子もよくなり、2年前からは抗うつ剤を中止し、現在は足取りもしっかりされ、転倒が減っています。
事例B様:
92才女性。元公務員で定年退職され、現在は独居。2024年1月のある学習中のこと。利き手の右手で字をかけず、左手を添えて書き、すうじ盤のコマを左手で並べていかれました。呂律障害はなく、ご本人は気にされる様子もありませんでしたが、支援スタッフが脳の異変を疑い、学習療法マスターへ報告しました。その後もおやつの饅頭をフォークで切れず、お茶も両手で危なげに飲まれていました。B様はご自身に対して厳格な方で、他人に迷惑をかけまいと「大丈夫だ」と繰り返されるものの、いつもと違うご様子なので、一人で家に帰さず、診察にいくことにご納得いただきました。受診結果は、急性の左脳梗塞でした。入院治療を受け、早期発見だったため後遺症なく無事に退院されました。学習をしていなければ、見過ごしていたかもしれません。スタッフの学習中の観察力と報告が生かされ、迅速に対応することができた事例です。
②ご家族にとっての効果
学習者の笑顔が多くみられることは、ご家族にとって嬉しいことです。
事例C様:
92歳女性。重度の認知症。6年前に学習療法目的で当施設を利用開始。アルツハイマー型認知症と診断され、徘徊症状が出現し、ご家族の介護疲れを相談されました。学習を支援するスタッフも認知症の進行が早いと感じました。そのため専門的な受診を検討していただき、治療の上、学習の効果や変化の期待をご家族にお伝えしました。アルツハイマー型とレビー小体型認知症を併発されていましたが、薬物調整をされ、学習も続けられた結果、徘徊はなくなりました。
その後、徐々にではありますが、それまでできていた計算も音読も困難となったため、教材の調整を行い、学習範囲は数唱と二語文までとなりました。童謡などがお好きなこともあり、A6教材の歌の歌詞は不思議とリズムを覚えておられ、繰り返し行っています。最近はリズムが解らないこともありますが、歌詞は馴染みやすいようで、間違いながら声を出して笑っておられます。日によってはマニュアル通りにいかない時もありますが、スタッフが自信を持って学習療法を楽しい時間にしています。
何度も学習の卒業を考えましたが、その後も学習を継続できた理由は、まだ残存能力があること、学習者は楽しまれていること、怒ることなど言葉や態度にできる感情表現豊かでその場面の感情記憶を大切にしていきたいというスタッフの思いもあったからです。さらに、ご家族全員で大切に介護をされ、終了した教材をお返し、その教材でご家族が自宅での学習を支援されています。名前と時間の数字を書けることもあり、ご家族は喜ばれています。可能性がある限り、あきらめずにご家族とともに前を向いていく姿勢を持ち続けたいと思います。
送迎時、スタッフがご家族に施設での様子をご報告したり、ご家庭での問題を相談されたりする際、言葉遣いに注意し、ご家族の気持ちを理解した上で対応することも、培ったコミュニケーション能力を発揮できる場面となっています。
③スタッフにとっての効果
スタッフは日々ランダムに学習支援をしています。前回の学習内容や会話の記録などに目を通し、生活面の記録もしています。先ほどの事例に挙げたC様については、その日の状態により学習を円滑にできないこともあります。スタッフから「学習支援に迷った」と相談があれば、マスターが支援のサポートに入り、様子を見学します。マスターからアドバイスを行うことで、次からは自信とチャレンジの気持ちを持つようになり、今ではそのスタッフが自ら進んで支援にあたっています。スタッフが学習を楽しいと思えれば、学習者にとっても楽しい時間にすることができます。『自己研鑽』という言葉は、簡単なことではありません。けれど、スタッフの観察力は常に利用者全体に向けられ、課題をその場で共有し、よりよいケアにつなげています。コミュニケーション能力の面でも、スタッフは笑顔と、その人らしさや回想などを会話から引き出し、学習以外の場でも積極的に声をおかけし、居心地の良い空間をつくっています。
④施設にとっての効果
2012年に学習療法を導入し、まずはご家族にご理解を得るために、導入5年後に学習体験会を実施しました。スタッフのコミュニケーション能力やケアの質の向上をめざし、学習者を増やしたいと考え、身近なケアマネジャーを対象とした体験会を開き、デイサービスで行う体操や学習を実際に体験して頂いたのです。これをきっかけに、多くのケアマネジャーに学習療法を知っていただくことができました。事例のC様もそのお一人です。さらに、地域の方にも学習療法を知っていただこうと、体験会を実施しました。いずれの体験会においてもスタッフが一丸となって協力し合い、脳画像を用いて、脳の活性化のことや事例を紹介した結果、スタッフ間のチームワークがさらに向上する活動となりました。
デイサービスを利用されている方々全員に学習療法を行いたいという思いはずっとあるものの、実際には他の業務との同時進行は難しい状況です。そこで、利用者の認知機能を知るために、学習されていない方にもMMSE検査を実施しています。同時に、スクエアステップという転倒予防と認知機能の低下予防のバランス運動を励行しており、スタッフは認知機能の程度を把握し、対応しています。
スタッフが利用者の表情の変化に気づく力、観察力を活かし、活き活きと在宅生活を維持できるように、支援を続けていきたいと思います。
■特別養護老人ホーム
社会福祉法人 順明会
特別養護老人ホーム ジャルダン・リラ
①学習者にとっての効果
●日常の顔と学習時の顔が違う
朝と夜でも顔が変わる方も多いのですが、何もせずにただ椅子に無表情で座っているだけだった方が、学習時は声も出ているし、笑顔もあり、すごく真剣に考えている顔も見られます。こんなに集中できる姿は、「まだまだ生きている、成長している」と実感させてくれる、双方にとってとても楽しい時間です。
●学習を始めたらその人の本来の優しい姿が
自分が一番で、「今、私が困っているんだから、私のことやって欲しい」 という人たちが、学習を始めると職員が忙しそうに1人で夜勤で動いているのをじっと椅子で座って待っているようになったりします。「若い子が頑張っとる、忙しそうにしとるで、今は呼びかけてはいかんな、でも、私ちょっと不安で出てきちゃったんだけど」 という雰囲気の気遣いがでてきたり、「何かやることない?」と言われ始める方もいます。
②ご家族にとっての効果
●「家にいる時には、気づかなかったような言葉や表情が溢れています」(ご家族からの感想)
毎月、郵送している学習療法のお便りに掲載している写真を見ることで、ご家族は普段の面会では中々出会えない素敵な笑顔に喜ばれ、学習療法時の様子のコメントにも安堵して下さる方が多いです。認知症だけど、それでもまだこんな素敵な笑顔が出ます、その人の本来の部分が残っていることを感じてもらっています。(学習療法は30分の個別対応だからこその情報です)
●「大事な宝物が一つ増えた気がします、喜びを忘れた親を救っていただいた」(ご家族からの感想)
学習を始めたら最後まで継続することを目標にしていますので、学習時の素敵な笑顔の写真をまとめて最後にお渡しすると遺影に使ってくださったり、お礼のお便りや逆にDVDにまとめた物をいただいたり、信頼関係が最後まで繋がることもあります。
③スタッフにとっての効果
●職員の関わりによって、入居者様を知り可能性を引き出すことが出来る
学習療法はご利用者とゆっくりと向き合い、関わることの出来る宝物のような時間です。「今日はどんな表情を見せてくれるだろう」「今日も楽しかったと言ってもらえるだろうか」とドキドキする時間です。だから、この時間を大切に向き合うことで色々なことが見えてきます。「時計が読める、自分で時計の向きを変えられる、自分で靴も履けるかも、他の人と関われるかも」、些細なことに気づけると自立にも繋げられています。
●学習療法を通して、入居者様の些細な反応や、変化に敏感になるなど観察力の向上が出来る
入居施設なので24時間単位で全体を見ることが大切で、学習時間と日常時間を繋げて考えてみると、いろいろなケアが変わってきます。月次検討会という学習と日常を振り返る会議があり、そこで何を見たら良いのかという観察の視点を気付いてもらうために話し合いをします。
- 名前が書けなかったのは何故?いつもは書けるのに?→睡眠の様子は?排便は?食事は?など普段の様子と繋がっていることが多いことを知ることができます。
- 学習開始時は機嫌が悪かったけれど最後は笑顔で終えました。→学習後はフロアーでも落ち着いていました。
職員が多くのことを学ぶ場になっています。
④施設にとっての効果
●認知症の方々に対する緩和ケアとして、学習療法を導入していることをお伝えしている
学習療法は、「認める・褒める」「その人を知ること」を大切にしているので、三大介護だけではなく、その方の尊厳を尊び心のこもった心づかいをもっとも大切にするという理念に通じています。そして、「認める・褒める」という考えは、職員の人材育成にも役立っています。
また、職員の中で、昼夜逆転、閉じこもり気味、怒りっぽい、帰宅願望などの認知症症状の方の緩和には、学習療法を試みることで変わるのではないかという期待と可能性を、経験を通して信じる心が根付いてきていることは心強いです。
●家族とのコミュニケーションの広さのみならず深さに繋げられている
担当者会議の時に、入居者様を中心に家族とケアマネ職員、担当の介護職員、そして、他職種の職員が、 1つのもの(ケアプランに入っている学習療法の様子)を通して、今後の関りを考えていくきっかけになります。だからこそ、入居者様の本音が聞けるコミュニケーションの方法としても、学習療法は必要な時間です。
社会福祉法人 香東園
特別養護老人ホーム 絹島荘
①学習者にとっての効果=生きがい 笑顔 私はできる!生きている
「あなたのわたしの生きる一日を大切に」が、絹島荘の合言葉です。ご利用者の生活はもちろんですが、そこで一緒に過ごす職員にとっても貴重な時間です。どちらの一日も同じ重みがあります。共に笑顔で楽しく過ごせる施設でありたいという願いが込められています。この柱にそって、すべてのケアが広がっています。
学習療法の手法は、まさにこの考えにピッタリでした。効果としては、①関係性の変化(個から全体へ)、②主体性の変化(してもらうからしてあげるへ)、③思いやり(おもてなしの心がよみがえる)、④意欲(自分の中の可能性に気づく)が挙げられます。
始めて1週間で施設のあり方を考えさせられるほど、ご利用者が劇的に変化しました。「自分のことで精いっぱい、してもらうのが当たり前」から「何かできることがあればしてあげたい」という気持ちの変化です。
学習療法をしたご利用者の笑顔は何から出るのかを考えたとき、一番に感じたのは「施設の生活には自分からやらなければいけないものがない。その中で、学習療法は唯一自分からやって今日も100点とエールを貰える、認められ達成感を味わえる場。それが生きがいとなり、笑顔になったのだ」と気づかされ、このことから「ご利用者自ら動き出すきっかけと役割づくりへのケア」へ施設として考え方を変化していきました。職員とご利用者の関係から「ご利用者同志の思いやりコミュニティー」ができました。
②ご家族にとっての効果=ご家族とご利用者・家族と施設のつながり強く
学習療法の導入1周年で、ご家族を招いて式典を行いました。ご家族が見守る中で学習療法を行うと、ご利用者はいつもより張り切って楽しんでおり、その姿を見て興味を持ち、ご家族も笑顔になり、楽しまれました。その姿に刺激を受け、翌年の2周年記念ではご家族にも学習者になっていただき、2対1で学習療法を行いました。「これ、いいねぇ。家でもするかい?」と話されたご夫婦や、職員の「速いですね」とのエールに、「ほら、計算ツヤコの娘やから速いんで」と話された方、母に息子の教材の丸つけをしてもらい、喜ばれていた方もいらっしゃいました。
そこから各ユニット主催の家族会へと進化していきました。日報でご利用者の言葉をそのままに記録する方法を学び、コミュニケーションから集めた宝のような日報を日記帳の形で集大成した「思い出日記」、そして、時系列・項目ごとに並べ替えることでできあがった重みのある「自分史」を作成しました。それをご家族にお渡しすると、「あぁ、おばあちゃん、こんな言い方するんや。私の知らんことまで書いとるわ。こんなん作ってもらって嬉しい。宝にします」と大変喜ばれました。
導入当初から発行していた半年に1回の「楽習療法だより」は、「学習療法を行っていない方へも伝えたい。もっと短いスパンで伝えたい」ということで、「ご利用者様の様子をお知らせしますシート」へと進化しました。ご利用者と共に過ごした生の声やしぐさをそのままお伝えし、身体のことやどのようなケアをしているのかを、写真を付けて月1回お渡ししています。ご家族からは、「おばあちゃんはまだ、こんなことができるんですね。いい顔を見せてくれてうれしいです。ありがとう」といった喜びの声をいただいています。
③スタッフにとっての効果=成長。ご利用者に興味を持つケアのひろがり
絹島荘は「ご利用者は全職員で支える」という方針であり、全職種の職員が学習療法実践士の資格を持っています。そのため、全職員が学習療法をすることができ、多方面からの目で気づきができてくるため、ケアの幅も自然と広がり、職種間の垣根もなくなります。月1回、施設全体で行う「楽習サロン会」も職種間のコミュニケーションが良くなる一つでもあります。これは、施設にとっての効果でもあります。
学習療法を行うことで、介護にとって重要な要素である傾聴力、観察力、気づき力、コミュニケーション力、記録力といったものを高めることができました。ご利用者のリクエスト「したい・行きたい・食べたい」を実現させるべく、職員は工夫を凝らし、即実践に向けて企画し、地域に出て楽しめる時間をいっぱい実現させていきました。「その人らしさ」や「個性」を引き出すことで、施設方針である「尊厳ある生活」「自立支援」が、学習療法を起点として実現されたと思います。
④施設にとっての効果=施設の透明化・業務改善・地域へ飛び出す
先述したようなスタッフの介護力アップは、大きな財産です。そして、日報から始まった記録は、家族に対して施設の透明化をはかることが可能になり、信頼にも繋がったと思います。また、学習療法によって、ご利用者の良いこと探し・できること見つけをすることをきっかけに、職員同士の良いこと見つけをする「ハートメッセージカード」という活動によって、職員同士がお互いを認め合い、思いやるようになりました。そこから、誰でも同じように業務ができるようにと、業務の見える化を行い、業務の見直しまで発展しました。人間関係も良くなったことで、職員の雰囲気も良くなり、施設全体の雰囲気も、ゆったり和やかに変わったと思います。
また、地域貢献のひとつのツールとして、学習療法が非常に役立ちました。そして、地域に出るきっかけにもなりました。2015年6月に、絹島荘として東かがわ市で脳の健康教室を開講しました。認知症予防講座という位置づけであり、「スマイル&スマイル講座」という名称で毎週火曜日に実施しています。
■介護老人保健施設
社会福祉法人 光寿会
ケアステーションひかり
①学習者にとっての効果
認知症予防・進行抑制・改善の効果と同時に、ご利用者様の日常の彩りとなるものだと思います。ご利用者の皆様は体の衰えと同様に、ご自身の認知機能の衰えを何かしら自覚しておられ、そのことに不安を抱いて生活されています。ご利用者さまにとって学習療法に取り組むことは、自分自身を元気に保っていくための、そして衰えていく自分への不安に立ち向かうための方法・習慣になっていると言えると思います。
以前と比べると、最近は、ご利用者様の側から学習療法に興味を示されることが多くなっています。これは、ご自身の健康を保ち続けたいと考える方が増えていること、充実した生活を送り続けたいと希望する方が増えたことの表れだと思います。
また、学習療法は、入居生活の中で入居者様同士が、人間関係を継続し続けることができる貴重な機会となっています。当施設では週5日学習していただいていますが、毎日同じ方と顔を合わせおしゃべりができることをとても楽しみにされています。
②ご家族にとっての効果
入居中のお母さまのことを「認知症だし、もうダメかな~」と、ぼやいてばかりで、半ばあきらめている様子の息子さんがいらっしゃいました。ところが、この方にお母さまの学習の様子を見ていただいたところ、お母さまががんばって教材に取り組み100点をもらっていることを大変喜び、お母さまを褒めはじめ、さらには自ら介助をされるように変化していきました。息子さんにとって、本来のお母さまの姿が戻ってきたことが、この上なく嬉しかったのでしょう。
このように学習療法はご家族様にとって、あきらめていたことを取り戻す「希望」のようなものだと思います。他にも、入居時には文字が書けなくなっていた方が、学習療法に取り組むうちに元のように書けるようになり、ご本人もご家族さまも一緒に喜んでおられた例もあります。
また、少し不思議なことですが、入居中のお母さまとお嫁さんが仲良くなるケースが多いように思います。お母さまの側からもお嫁さんの側からも、お互いへの感謝の思いが育まれているようです。お嫁さんから「面会にくるのが楽しみになった」というお声を聞けたときは、私たちも本当に嬉しく思いました。
③スタッフにとっての効果
学習療法に携わる職員にとって、学習支援の時間はご利用者さまへの気づきを深める機会であり、それに伴って自身の対応力を高める成長の機会となっています。ですが、何より大きいのは、職員にとっても喜びの機会になっているということです。学習療法では、お2人のご利用者さまと約30分過ごすわけですが、介護に従事している最中にそのような時間を持つことは難しいでしょう。
介護に携わっている職員は、「人に何かしてあげたい」という気持ちの強い方が多いです。学習療法の時間は、ご利用者様のお話をゆっくり聞きお話しすることで、この想いを叶えることができる時間になっています。
私たちは、学習療法に取り組んでいるご利用者さまの様子を月に一度共有し、ご利用者さまがどんな希望を持っておられるか把握しようとしています。
この話し合いの際、直接お話を伺っている職員が、「〇〇がしたい」と仰っていました、とか、「またあそこにいってみたい」と仰っていました、などとたくさん情報を出してくれます。そして、そのご希望を叶えるにはどうしたらいいかを話し合い、ご利用者さまに提案し、ご利用者さま個々のご希望・夢の実現にチャレンジしています。
このようなサイクルを学習療法を通じて経験できるという点でも、職員の成長に大きくつながっていると感じています。
④施設にとっての効果
自施設にとって提供できるサービスの種類が増えているわけですので、お客さまのニーズに応えることが増えていますし、当施設では学習療法から派生した取り組みとして、ご家族さまや地域の皆さまに学習療法を通じて当施設のことを知っていただくイベント(学習療法地域交流会)をおこなっており、このことも施設にとっての特長・強みにつながっていると考えています。
このイベントは毎年おこなっているのですが、毎年新しい企画・アイデアが職員から飛び出します。実際、準備も大変なのですが、楽しいのです。これは学習療法をやり続けてきた中で、皆が学習療法をお勧めしたい気持ちになっており、ひとつになることができ、「やってみたい」が形になるのだと思います。他にも学習療法に関連したイベントを経験していく中で、個人的な感覚ですが、「仕事の楽しさ」を実感し、「目には見えない報酬」を受け取っているように感じています。
また、施設同士の交流という面で考えても、当施設は老健ですので、通常の交流の相手は老健に限られるのですが、学習療法を導入している施設同士であれば施設種類に関係なく交流ができ、多様なサービスの可能性を知り、学びを得ることができているのも大きいです。
【番外】導入を検討されている施設様へのひとことメッセージ
- 学習療法は、「目的」ではなく「ツール」です。学習療法を実施することだけを目標・目的とするのではなく、その先に何を実現したいのか?を考えると、どんどん楽しくなっていくと思います。
- 衰えていく不安や喪失感に苛まれている高齢の方にとって、学習療法は自分らしくあり続けるための「希望」であり、「生きる糧」と呼べるほどになるくらいの魅力を秘めたものだと思います。
■グループホーム
NPO法人 グッドシニアライフ
グループホーム和居和居
①学習者にとっての効果
まずは、教材がその方にあったレベルで提供できるので、学習がやりやすく、名前や日付も毎回書くことで、最初は筆圧が弱くても、だんだんとしっかりとした字を書けるようになっていきます。それを続けていくことで、お友達やご家族へお手紙を書けるようになり、家族を気遣うなどの精神面でのゆとりも出てきます。導入前には、自力で教材などを用意してみたものの、コピー用紙だと裏写りしてしまったりでしたが、公文の教材は紙もしっかりしているので、楽に提供できます。また、日付を意識することで、その時々には季節感も感じる機会となります。
その上で、とにかく楽しんでおられることが大きな効果だと思います。笑顔が増え、冗談を言ったり、自身のやりたいことを伝えるなど、意思決定できるようになります。週4回の学習機会を提供しているので、学習を通じてやる気が出て、いろいろなことに取り組めるようになります。掃除機で掃除したり、洗濯を干したり、畳んだり、台所作業もして頂けています。自立支援に繋げられていることもご利用者さんにとって良い効果だと感じております。
また、新しいご利用者さんがいらっしゃる時にも、トイレを案内するなど、先輩のご利用者さんが気遣ってくださります。そうした精神的な部分も含めて、みなさんお元気に過ごして頂けていると感じております。
②ご家族にとっての効果
毎月、日報(学習時の記録)を各ご家庭にお送りしているので、記載されている学習時の会話の内容や学習の様子が伝わり、施設での生活への安心感を持って頂けてると感じております。コロナ禍以降など、なかなか施設での生活が見えにくい中で、この日報を通じての安心感が大きくなっています。日報の中には、ご家族ですらご存じなかった話なども出てくるため、ご家族にとっても「お母さん、昔そんなことしてたんだ」というような新しい発見にもなっています。この日報に加えて、各ご利用者様と立てている目標をまとめたものも毎月ご送付しております。それと、6か月に1回ではありますが、学習療法センターから提供されているフォーマットを使って、学習様子の写真と認知機能検査(MMSE・FAB)の結果もお知らせするようにしております。
また、ご家族が面会にいらっしゃった際にも、スタッフとご利用者様の関係性が伝わり、安心感が増しています。これは学習を通じて、全スタッフがその方とのコミュニケーションを大切にしていることで、ご利用者さんとの信頼関係を築けていることが大きいです。あるご利用者様は「自宅よりここにいる方が楽しい」と仰られ、ご家族からも「ちっとも帰りたいって言わないんですよ」とお聞きすることもあります。先にお話ししましたご本人からのお手紙も含めて、ご家族にも喜んでいただいたり、安心頂けている材料になっているかと思います。
個々のご家庭以外へのお伝えでは、自立支援の発表会や学習療法がどんなものかをご家族にも知って頂く機会も設けておりました。なかなかコロナになってからは難しい場合もありますが、そうした『伝える』場面を作ることは大事だと感じております。
③スタッフにとっての効果
ご利用者様としっかりとコミュニケーションが取れることで、ご要望を伺ったり、それを踏まえて一緒に外出する機会を作れたり、信頼関係を築くきっかけになっています。学習療法の教材は、コミュニケーション能力を高めるきっかけづくりになり、コミュニケーションの仕方がわかることで、ご利用者様によって話し方を変えられ、関係性が良くなります。コミュニケーションの練習の場となっていることが大きな効果です。また、日報に気づきや会話内容を残すことで職員同士の共有にもなり、全員でご利用者様を知れるツールになっています。他の職員の日報を読むことで、コミュニケーションの内容を知り、会話の内容を考える支えにもなります。
その中で、ご利用者様の可能性を引き出し、具体的な実践ができるようにしています。例えば、会話の中で、皮むきや混ぜることができることが分かった方におやつ作りを実践したり、できるところに目を向けれるようになっているので実践に繋げられます。信頼関係の土台にもなり、褒める機会が作りやすいのも一つの効果です。普段はなかなか褒めれなくても、100点や会話の中で褒められ、ご利用者様も笑顔になられます。新しく入った職員でも会話ができることで早く慣れて、ご利用者様も「この人は安心」という気持ちになって頂けています。
また、職員のやりがいにも繋がっています。介護の仕事は、当然大変な仕事も多いですし、辛いことばかりでは続けていけません。大変な中でも、ご利用者様との関りでのやりがいを持てるように、職員も楽しく仕事をできるようにしたいと思い、学習をきっかけにこんな取り組みもしています。学習時の会話を2か月分まとめた「マイストーリー本」をご家族にお渡ししたり、自立支援の目標も職員がまとめて家族会にて直接報告したり、こうした場面で、スタッフが直接ご家族やご利用者様にお礼を言われることで、やりがいや達成感に繋がっています。
④施設にとっての効果
生活の基本に学習療法を置けることで、ご利用者様が元気で会話のある施設になっています。見学に来られた方からも、「家庭的な雰囲気で、穏やかで会話の多い、いい施設ですね、入りたいです」と言って頂けて嬉しく思っております。その根幹にあるのが、ここまでお話ししたコミュニケーションの土台です。「自分の意見が言える」「自分のやりたいことを取り組める」そのきっかけに学習療法が活きています。学習療法を続けていくことで、ご利用者様が皆様ずっと元気に暮らして頂けています。おそらく学習療法がなければこんなに元気になれていないです。私たちの施設は17年前に学習療法を導入致しましたが、導入する前にはご利用者様が「ぼーっとしている」ことも多かったです。それをどうにか変えたくて導入しましたが、今ではこのように皆様お元気に過ごされています。学習を続けていくことで、いつまでもご利用者様が元気でいられます。コロナ禍で外出自粛の中でも続けられ、お元気でいて頂けました。認知症の進行もとても緩やかです。ご利用者様がいつまでも元気でいらっしゃるので、地域に出て(花植え作業を子ども会と一緒にするなど)活動することもあります。ご利用者さんにも楽しんでいただけています。とにかくご利用者様が元気で過ごせる肝になっています。そういう部分で、学習療法を導入していること自体が、施設のアピールポイントになっています。
また、地域の方にも信頼できる認知症施設と思って頂けていると感じます。ご利用者様との外での活動だけでなく、地域に伝える発表会や認知症カフェなどでも地域の方との接点を持てたことも大きいです。
認知症について知って頂き、また認知症になっても元気でいられることも、職員やご利用者様からの発表を通じて知って頂いています。そういった活動を知って、応募してくれた職員もおりました。こういった活動を通じて、地域へ貢献していけたらと思っております。
■小規模多機能型施設
社会福祉法人 みねやま福祉会
はごろも苑ないきの家
①学習者にとっての効果
学習療法に取り組んでくださっているご利用者様は、毎回この学習の時間を楽しみにされています。特に読み書き教材の話題は豊富で、例えば旅行がお好きな方にとっては「旅行記」の教材が人気です。
「ここに旅行したことがある」「その時にこんなことがあった」など、当時を思い出されながら会話が弾みます。
中には施設での学習だけでなく、ご自宅に宿題としてお持ち帰りになることを希望される方もいらっしゃるぐらいです。このように楽しみながら読み書き、計算、そして職員やご利用者様同士のコミュニケーションによって、日々いきいきとお過ごしいただけています。
学習をされる方は長らく継続をしてくださっていますが、施設をご利用になり始めた時と比較してもお変わりなくお過ごしいただけていることが、私たちにとっても嬉しいことです。
②ご家族にとっての効果
ご家族様には施設でのご様子をお伝えするお手紙をお渡ししています。そこには学習のご様子や機能検査のスコアの推移などもお伝えするようにしています。普段、なかなか施設でのご様子を知っていただく機会が少ない中、ご家族様には喜んでいただいています。また客観的な機能検査のスコアをお伝えすることで、お変わりなくお過ごしいただけていることを実感いただくことにもつながっていると思います。
ご家族の方の中には「このような簡単なことで効果があるのだろうか」と疑問を持たれる方もいらっしゃいます。以前はご家族の方にも学習を体験いただいたりもしました。また、なぜこのような取り組みが効果的なのかもお伝えするようにしています。ご家族のご理解が深まることで、日々の生活の中にもその要素を取り入れてくださるケースもあります。
③スタッフにとっての効果
日々のケアで多忙になることもありますが、ご利用者様に向き合って過ごすことができる学習の時間は、職員にとって楽しい時間になっています。またそうやって日々、ゆっくりと関わる時間を確保することで、ご利用者様のちょっとした変化に気づく力が高まっていると実感しています。職員の中には直接学習に携わることのない職員もいますが、学習療法で大切にしている「ほめ認めること」「ちょっとした変化を見逃さないこと」などが施設全体に浸透してきています。この職員の気づく力や意識の高まりは、日々のバイタルの時のコミュニケーションやアセスメント、また施設内で共有するご利用者様との関わり方やその目標設定にも活かすことができています。
④施設にとっての効果
学習療法を導入して早や10年以上が経ちます。お一人住まいの方のお宅に訪問する際も、学習療法の教材を活用したコミュニケーションを図るなど、そのきめ細やかな対応が当施設の強みや特長として地域の方々にも認識いただけるようになってきました。おかげさまで「学習療法がしたい」からとの利用目的でお越しになる方もいらっしゃいます。
当施設でも人材の不足など厳しい現実もありますが、学習療法によってお元気にお過ごしいただける方が増えることによって、対応が可能になっている面も感じています。
引き続きこの学習療法を活かした施設づくりに取り組んでいきたいと考えています。
■有料老人ホーム
株式会社サンハート
SILVER SUPPORT 星にねがいを
①学習者にとっての効果
入所者の皆さんは、どの方もどの方も皆楽しそうに学習療法を続けておられます。
学習前の入所者様からの「今日の学習はまだ始まらないの?」という声。
学習が始まってからの入所者様の真剣かつ楽しそうな顔。
学習最後のプログラムである【磁石すうじ盤】の後かたづけをしながら、その場を離れるのを名残惜しそうにしている入所者様の顔。
そして、学習終了後に「楽しい時間をありがとうございました!!」と、次回の学習を楽しみにしながら帰って行かれる入所者様・・・
みなさん、心から学習療法を楽しんでおられます。
例えば、現在95歳のAさん。認知症を患って15年前に当施設に入所された方なのですが、95歳の現在も入所当時の認知機能(FAB・MMSE)を維持し続けています。
楽しみながら学習療法を続けることが、現代医学ではどうすることも出来ない認知症の維持・改善につながっている事を体現して下さっている数ある事例の中のひとつです。
②ご家族にとっての効果
ご家族の方には、定期的にお手紙や写真で入所者様の施設での様子をお知らせしたり、学習の様子を直接観て頂いたりしています。
学習療法は、ご家族の方々の入所時の不安を拭い去ってくれたりもします。
楽しそうにスタッフと会話をしながら学習をしている姿を見て、ご家族は「家ではこんなにしっかりしていないのに」と、びっくりされるのと同時に、とても安心されます。
「この施設で良かった!」というご家族の方々の安心、そして施設への信頼にもつながっています。
③スタッフにとっての効果
スタッフは、教材を通じての入所者様とのコミュニケーションを心から楽しんでいます。
普段は寡黙な男性の入所者の方々も、“戦時下での体験“など、教材に出てくる昔の話題に沿って自らの体験や経験を生き生きと話してくださいます。
この教材があってこそ生まれる有意義な入所者の方々との時間です。
また、自分の知らない話をお聞きするのは、スタッフにとっても本当に楽しいことのようで、入所者様との距離もますます縮まります。結果として、双方向の絆も育まれ質の高い介護の実践にもつながっていきます。
④施設にとっての効果
学習療法を通じての「スタッフのモチベーションの向上」は、入所者様やそのご家族との絆をより一層深め、ひいては、施設全体の介護の質の保証にもつながっていくと考えています。
当施設は、学習療法の専任スタッフ制をとっていますが、スタッフの定着率は非常に高く、入所者様やご家族の方々の安心材料になっています。
学習療法を導入するには?
学習療法を導入するための概要についてご紹介しています
1.施設導入の概要
学習回数
効果を高めるために、入所施設では週5回を基本として3回以上、通所施設では原則として全開所日に学習時間を設定し、通所日に学習します。
スタッフへの研修
施設内で学習療法を実施するスタッフへ弊社から研修を行い、資格を取得いただきます。
費用のご請求
学習者数と学習状況について、月1回、弊社へ報告書をご提出いただき、それに基づいて、弊社から請求書を発行いたします。
学習療法には2つの資格があります
学習療法実践士
学習療法を導入している施設で、学習療法を実施するために必要な資格です。
弊社の担当者、もしくは学習療法マスターの実施する「実践士養成研修」を受講し、3カ月以上の実践経験を経て、必要な要件を満たすことで取得できる資格です。(2016年4月から運用を開始)
学習療法マスター資格
学習療法実践士の上位資格です。学習療法チームのリーダーであり、学習療法実践士の養成ができる資格です。学習療法を導入している施設で、所属する施設責任者の方から推薦書を提出いただき、弊社の担当者が実施する「マスター養成研修」を受講していただきます。「認定テスト」に合格し、弊社が認定することで取得できる資格です。(2016年4月から運用を開始)
2.学習療法センターのサポート内容
研修の実施
導入後3か月間は初期特別研修期間
個別アドバイスの実施
弊社担当者がご相談を受け、アドバイス
学びと交流の場の設定
研修会や、地域での学びと交流の会など
情報提供
弊社ホームページや定期刊行物(情報誌)、FAX等
3.導入までの流れ
まずは導入に関する資料をご請求ください。
その後、弊社担当者から訪問またはオンラインによりご説明申し上げます。
導入をお決めくださったあとは、以下の流れとなります。
スタート2か月前
詳細の打合せ、「学習療法導入契約書」締結、導入計画書作成、学習療法導入施設見学
スタート1か月前
学習希望者を募集、スタッフ向け研修実施、学習療法実施準備(学習コーナーや準備物等)
スタート月
初回学習日に訪問
4.導入・実施に必要な費用
学習療法には2つの資格があります
【1】初期導入費
11万円(一律1回のみ)
「導入施設登録料&資格登録料」「ノウハウ使用料」「導入時研修マニュアル料」「初期研修及び訪問サポート料」「情報取得や資格登録に使用するホームページ使用料」などが含まれます。
【2】運営備品・物品費用
2~3万円程度
学習療法の実践に必要な備品や物品をご準備いただきます。
毎月必要となる費用(税込)
【1】基本実施料
学習者お一人につき月額2,200円
教材の費用は含まれています。
受益者(学習者・ご家族)負担のケースが一般的です。
教材のみの販売はしておりません。
発生ごとの費用
【1】物品費用 (斡旋物品を購入した場合の費用)
【2】送料 (ご請求いただいた教材および物品の送料)